17話 灰燼の竜骸


ドスっ
腹の上に踵が落ちてきた衝撃しょうげきで目を覚まし、ウォルフラムは無言で天を仰いだ。
窓の隙間からは、既に朝日が差し込んでいる。
(…契約してからというもの、毎晩これか…)
彼の苛立ちの正体は、隣にいる少女の寝相だ。彼女は左手でウォルフラムの手を掴んだまま、彼の腹に足を乗せ、猫のように液体になって頭と右手をベッドの外に投げ出していた。
手を繋いで寝るという、契約当初の気まずさなど、とうの昔に物理的な苦痛と苛立ちに上書きされていた。
(こいつは気づかないのか?頭と足の位置がもはや就寝前とは90度違うじゃないか。)
顰めっ面で、しかし彼女の落ちかけの半身を支えると、乱暴にベッドの中心に転がした。それでも彼女は尚、心地よさそうに寝ている。
(はぁ、物理接触で魔神まじん化しないとは言え、この状況じょうきょうをどうにかできないものか)
彼は苦悩を抱えながら、無意識むいしきに乱れた服と寝具を几とばり面に伸ばす。それから、小さなテーブルに置いていた、計画書に目を通した。
(リナはギルド研究所けんきゅうじょで機材を借りれる関係から、まだしばらくはここに残って俺の呪いの解析を進める…。しかし、やはりついでに立ててる計画が壮大すぎるな。食糧問題解決のための農園計画。滞在の間だけ手伝うとのことだが、予定する短い期間で何か成果があるとは思えない。リナも、研究所けんきゅうじょのレオも、揃いも揃って夢想家か…)

ーー時は同じく早朝。
ゲイルは、まだ人気のない道を、ギルドへ向かって一人歩いていた。
脳裏のうりに蘇るのは、数日前の屈辱的な敗北。あのビギナー装備の男…ウォルフラムの、余裕ぶった態度。 「チッ…気に食わねえ…」 悪態をつきながら、彼は無意識むいしきに拳を握りしめる。もっと強くならなければ。あの男にも、そしてザハラ最強のハンターであるリンダにも、いつか必ず認めさせてやると。
その内なる決意の空気を読まず、突如、前方から高い声が響いた。
「きゃああああ!」
声がしたのはギルドの納品所。昼間ならハンターたちの活気で満ちている場所だ。
「どうした!?」
ゲイルが駆けつけると、そこには信じがたい光景こうけいが広がっていた。
壁を背に尻もちをつき、恐怖に顔を引きつらせた受付嬢。
そして彼女に覆いかぶさるように迫る、一体の巨大きょだいなモンスター。
全体的なフォルムは二足で立つクマのようだが、その全身は黒光りする硬い甲殻こうかくで覆われている。
アリクイのように長く伸びた鼻先と、ツルハシのように発達した前足の爪。
「“岩砕獣ガンキッカー”か!捕獲納品物の脱走か!?」
モンスターが、ベトベトした唾液に濡れた爪を振り上げる。
ゲイルは思考しこうするより早く、倒れた女性の間に滑り込んでいた。
ナックルダガーを構え、振り下ろされる一撃いちげきを甲高い金属音と共にはじかえす。
大丈夫だいじょうぶか!?」
「ゲイルさん…!それは絶命後に納品されていたんです!なのに急に動き出して…!」
「何!?」
爪を弾かれた岩砕獣ガンキッカーは後ろにのけ反ったが、地に着いた太い尻尾で体を前に押し返すと発達した両脚でジャンプした。圧倒的あっとうてき質量の両足蹴りが2人に飛んでくる。
ゲイルは咄嗟とっさに女性を抱えて横に跳んだ。
ドゴォ!
壁に蹴りが入り、砂煙を上げて崩壊する。
「歩けるか?」
「脚が、痺れて…。あの唾液を受けました…」
「チッ、麻痺毒か。」
砂煙から再び岩砕獣ガンキッカーが飛んでくる。爪を構えてゲイルたちに振り翳した。
ゲイルは女性を抱えたまま避けると、ピューッと指笛を吹いた。
ドダダダダダダ!
指笛に呼ばれて素早くやってきたのは、アトラトル・ゲッコー。
ゲイルは受付嬢をひょいとゲッコーの背に乗せると、岩砕獣ガンキッカーに向き直った。
「離れてろ」
相棒に指示を出してゆっくり距離きょりを取らせる。岩砕獣ガンキッカーはその場を逃れるゲッコーに、長い舌を鞭のように打とうと伸ばすがゲイルのナックルダガーがそれを捉えた。
岩砕獣ガンキッカーは舌を少し切ったことで口に引っ込めた。
ゲイルのダガーに麻痺毒の唾液が絡むが、彼はビッと一振りしてそれを払った。
再び岩砕獣ガンキッカーの両爪が彼を捕えようと正面にクロスした。彼は身軽にその前屈みになった前脚を足場として蹴ると、逆手の双剣そうけんのようにナックルダガーを構えてコマのように拘束に身を捻り、連続した斬撃ざんげきを浴びせながら岩砕獣ガンキッカーの背を滑り降りるように攻撃こうげきを加えた。
重さはなく、軽く連続した攻撃こうげきが、彼の売りである。

甲殻こうかくに火花を散らすだけで、致命傷ちめいしょうには至らない。だが、ゲイルの狙いはそこではなかった。 岩砕獣ガンキッカーの注意が完全に自分に向いたことを確認すると、彼は着地と同時に後方へ大きく跳躍し、距離きょりを取る。
「さあ、ここまで来い!」
挑発するようにナックルをわせる。
「”|羽根はね《はねのは》”!」
青白い光で形成していた刃の色が更に白っぽく変化した。同時にゲイルの動きは更に早く、軽くなる。
怒りの咆哮ほうこうを上げて突進してきた大きな大砲玉のような岩砕獣ガンキッカーに、重力を感じさせない水の流れのように正面から駆けると、寸手のところで横を通り過ぎながら低い姿勢でその脚に乱舞する。見えない連撃で、硬い甲殻こうかく部分にヒビが入った。
「お前の蹴りは、やばいからな」
そしてもう一度ナックルをわせる。
「”|爆ばく《ばくのは》”」
今度は刃の光が赤く変化した。加速していた彼の身体スピードは元に戻った。しかし尚も身軽に次々と攻撃こうげきを避けて跳び回る。
彼が斬るのは岩砕獣ガンキッカーではない。壁を、地を切りつけると抉れた表面が赤く光る。
ゲイルを追って岩砕獣ガンキッカーの蹴りが飛んできた。彼が避ければ踏み抜かれた赤い光のトラップが、獣の破壊はかい力を借りて爆発する。
既に脚の装甲に傷を受けている岩砕獣ガンキッカーは、その場に転倒した。
隙を見逃さずにゲイルがると、首後ろに回り込んで青白い刃を立てた。
「さらばだ。」
首筋の隙間の装甲の無い部分を的確てきかくに、綺麗に貫き、岩砕獣ガンキッカーは動かなくなった。

程なくゲッコーがゆっくり戻ってくる。
ゲイルは腰のポーチから小瓶を取り出すと、受付嬢の脚にバシャっとかけた。
「解毒剤だ。岩砕獣ガンキッカーくらいの麻痺ならこれで十分だろう。」
「あ、ありがとうございます。しかし、他にも納品されたモンスターが生き返って、街に飛び出して行ってしまいました。この時間はまだ早いので、目撃者は私だけです。」
彼女はまだ少し緊張が解けない様子ようすで答えた。
「…なんだと。何が起こってやがる…」
ゲイルはあたりを警戒しながらゲッコーの背中せなか、彼女の後ろにると真剣な声て聞いた。
「あんた、受付嬢なら分かるだろう?ギルドマスターは今どこだ?報告せねば。」
ゲッコーが砂塵を巻き上げてした。


その少し前のこと、ハンターギルドの研究所けんきゅうじょでは、リナとの共同研究けんきゅうについて考えを巡らせていたレオが話し込んでいた。
「ですから、楼蝸牛ロウマイマイには言語は違えど私たち魔法使いが使うような術式のようなものがここに…」
リナの言葉の途中、
ドゴオオン!
外で何か激しく壊れたような音が聞こえた。遅れて、人々の喧騒けんそうが届く。
「な、なんだ!?この騒ぎは…!」
研究者けんきゅうしゃとしての冷静れいせいさをかなぐり捨て、レオは誰わりも早く部屋を飛び出していく。
リナもすぐさまその後を追い、彼女がすことを予想していたウォルフラムも続いた。音の発生源は――ギルドの納品所周辺だ。


納品所の周辺は、既にパニックに陥っていた。破壊はかいされた建物の残骸ざんがいが散らばり、土埃が舞っている。
「うわああ!死体が、死体が動き出したぞ!」
「素材として納品したモンスターが……!」
職員たちの悲鳴が飛び交う中、リナたちの目に信じがたい光景こうけいが飛び込んできた。

納品されるはずだったモンスターの死骸しがいが、まるで命を吹き込まれたかのように蠢いている。腕がもげた、熊のようなモンスター。首に大きな裂傷を負った狼型のモンスター。そのどれもが、生前の獰猛さを取り戻したかのように暴れ回っていた。
「くそっ、退がってろ!」
その場に居合わせたハンターたちが、負傷した職員を庇いながら剣を振るう。この街を守るのは、ハンターとしての誇り。彼らの背中せなかには、確かな覚悟かくごが宿っていた。

ウォルフラムが魔剣を抜き放ち、一行に襲い掛かってきた一体を斬り捨てる。しかし、モンスターは街の外からも、まるで何かに引き寄せられるように次々と現れ、腐臭が立ち込めた。
空を舞う翼竜、地中から突き出す砂竜、俊敏に駆け回る獣たち。その多くが、体のどこかを欠損させた「屍」だった。

「リナさん、あれは……ゴーレムですか?」
避難誘導をしながらレオが叫ぶ。リナは冷静れいせいに戦況を分析し、首を横に振った。
「いえ、違います! ゴーレムだとしたら、欠損によるダメージを無視して活動しすぎです。動力源がモンスターの内部ではなく、外から供給される別の魔力まりょくを帯びている……これは、アンデッドと呼ぶのが妥当でしょう」

その時、地響きと共に巨大きょだいな影が近付いてきた。アトラトル・ゲッコーの背に乗ったギルドマスターとリンダ、そしてゲイルの一団だ。彼らは眼下の惨状を素早く把握する。
情報じょうほうが集まる私ですら、この騒動の原因を掴めていない! とにかくハンターは力のないものを守り、逃がせ!」
ギルドマスターの檄が飛ぶ。ゲイルはリナの隣に立つウォルフラムの姿を初めて捉えた。
「お前、ビギナー装備か?!」
一瞬いっしゅん、侮蔑の色が目に浮かんだが、ゲイルはすぐに首を振る。
「いいや、今はそんなことはいい。行くぞ、お前ら! 戦えない者を逃すんだ!」
ゲイルはそう叫ぶと、手下と共に集団でゲッコーを乗りこなし、人々を安全な場所へと導き始めた。

誰もが目の前の混乱に対処するので精一杯せいいっぱいだった、その時。
街の外、地平線ちへいせんの向こうから、明らかに異質な存在が姿を現した。他のアンデッドとは比較にならない、圧倒的あっとうてきな威容。燃え盛る炎をその内に宿した、巨大きょだいな骨の竜。

「あれは……まさか……フィニス火山の伝説の古龍、ギガフィニクスの亡骸なきがらだというのか……!」
ギルドマスターが絶句する。その隣で、リンダが獰猛な笑みを浮かべた。
「間違いないな。あいつの相手は、アタシが一番の適任だろう」
「……任せる」
ギルドマスターがうなずく。彼は天に響くほどの大音声で宣言した。
「これより、ギガフィニクスのアンデッドを【灰燼の竜むくろ】と命名する! その無力化を、Sランクハンター、リンダ・ベルクに依頼する!」

リンダは近くでほうきに乗り、戦況を見つめるリナを一度だけ見上げ、ニヤリと歯を見せた。
「リナ! モンスターどもはアタシら専門家(ハンター)に任せな! あんたは、この騒ぎの根本を探ってくれるか? あんたの得意分野だろう!」
「――もちろんです!」
リナは力強ちからづようなずくと、ウォルフラムに向き直った。
「ウォルフラムさん、私を手伝ってくれますね?」
ウォルフラムは地上のアンデッドをはらいながら、短く応える。
「契約のうちだ」
二人はうなずき合うと、観測に適した場所を探すため、比較的モンスターの少ない建物の屋上を目指した。

一方、リンダと彼女の愛騎であるアトラトル・ゲッコー「海王丸かいおうまる」は、街の外に迫る灰燼の竜むくろへと駆けていた。
「姐さん! サポートに入りやす!」
そこへ、荒くれハンターチーム「ザ・ロイヤルズ」のリーダー、レックスが仲間と共に駆け寄ってきた。
「俺たちは姐さんに比べりゃ非力だが、パーティーとしての連携は慣れてる!」
「いい意気だ。期待してやる。先に行ってるぞ!」
リンダは不敵に笑うと、ロイヤルズが返事をする間もなく海王丸かいおうまるのスピードを上げた。あっという間にその背中せなかは小さくなっていく。

街の入り口を守る兵士たちは、古龍の圧倒的あっとうてきな威圧に怯え、後退りをしていた。それでも彼らは命懸けで竜むくろの注意を引き、その灼熱のブレスを街の外へと逸らさせる。
ブレスを吐き出そうと開かれた竜むくろの顎に、真横からリンダの大剣が叩き込まれた。ガゴッ、と鈍い音が響く。傷こそつかないが、ブレスはあらぬ方向へと逸れていく。
「よく頑張った! 負傷者を運んで撤退だ! ここからはアタシが引き受ける!」
リンダの力強い声に、兵士たちは安堵の表情を浮かべ、撤退していく。
「リンダさんが来てくれたぞ!」
「お願いします!」

リンダは巧みな手綱さばきで竜むくろの足元に潜り込むと、黒曜石こくようせきのように硬化した足の骨に飛び移り、大剣を思い切り叩きつけた。黒い骨に微かな亀裂が走る。
むくろはそれを煩わしげに鋭い爪で払いのけようとするが、リンダは慣れた動きでそれを避け、再び海王丸かいおうまるの背に飛び乗った。
(なんて硬い…。アタシの渾身こんしんで少し亀裂が入る程度か)
リンダを逃すまいと、竜むくろは胸部の肋骨の隙間から、溜め込んだ熱気ねっきを爆発的に放出した。砂埃と煙幕が辺りを包む。
煙が晴れていく中から、海王丸かいおうまるとリンダは無傷で再び現れた。そこへ、ようやく追いついたレックスたちが駆け寄ってくる。
「姐さん! ご無事で! 俺たちも来やしたぜ!」
「おう。お前たちは機動力がないから無理に近づくな! ギガフィニクスと同じ特徴なら、弱点は胸部の炎だろう」
説明の最中にも、巨大きょだいな尻尾がリンダを薙ぎ払わんと迫る。海王丸かいおうまるは左右に小刻みなステップを踏み、的確てきかくにそれを回避した。
「だが、デカすぎて懐に飛び込むチャンスがねえ。下手に近づけば、今の熱爆発が飛んでくる」
むくろは痺れを切らしたように息を吸い込んだ。
「デューク! 盾だ! 咆哮ほうこう威圧がくるぞ!」
レックスが叫ぶ。次の瞬間しゅんかん、ギャオオオオオオゥ、と鼓膜を破らんばかりの雄叫びが響き渡り、隕石が落ちたかのように地面の砂が円状に吹き飛んだ。
デュークが構えた大盾に、レックスとバロンは身を屈める。
だが、リンダは違った。海王丸かいおうまるからりると、咆哮ほうこう衝撃しょうげき波が到達する寸分のタイミングで、大剣を軸に身を独楽のように回転させる。ハンターの技量と装備の特性を極限まで引き出すことで成される回避術。音そのものを、彼女は避けてみせたのだ。
「なっ……リンダ姐さん、咆哮ほうこうを避けたぞ……!」
バロンが驚愕に目を見開く。常人には理解しがたいその立ち回りに、ロイヤルズの面々は息を呑んだ。
風圧ふうあつに吹き飛ばされた海王丸かいおうまるも、短い水掻きのような皮膜で滑空し、見事に体勢を立て直して遠くに降り立った。

「ブレスを誘え! 近づくには火を吹いてる時がチャンスになる!」
リンダが叫ぶ。
「レックス! アイツの喉に炎が見えるだろう。さっきブレスを吐いたばかりで小さくなってる。回復魔法かいふくまほうを使ってやれ!」
「て、敵を回復しちまうんですかい!?」
「戦略だよ! ブレスを吐かれたって、対処できりゃいいんだろ!? できるな!?」
リンダの無茶な、しかし自信に満ちた言葉に、レックスは一瞬いっしゅん戸惑いながらも聖印を翳した。
「癒しの光《ヒーリング・ライト》オオオ!」
放たれた光が竜むくろの骨の隙間を抜け、喉元で揺らめく炎を再び大きく燃え上がらせた。

むくろは尚も暴れ回り、リンダを執拗に追う。その爪を、牙を、リンダは紙一重かみひとえで回避し続ける。完璧かんぺきなタイミングでの回避をかえすことで、次の一撃いちげき絶大ぜつだいな威力を上乗せするハンタースキル。彼女は静かに、着実に、反撃の力を溜めていた。

レックスはリンダの意図を汲み取り、仲間たちに指示を出す。
「バロン、氷矢を用意しておけ。ブレスを吐く瞬間しゅんかんの喉を狙うんだ」
三人はリンダの動きに合わせ、近づきすぎず離れすぎない絶妙な距離きょりを保って走る。その時、巨大きょだいな尻尾が三人に狙いを定めた。
「逃げろ、二人とも!」
デュークが咄嗟とっさに前に出て盾を構える。しかし、その圧倒的あっとうてきな質量攻撃こうげきを防ぎきれるとは到底とうてい思えなかった。
「この脳筋が! 防御強化《ディフェスト》!」
レックスの詠唱に応え、デュークの盾がまばゆい光を放つ。その光は一瞬いっしゅんにして広がり、彼らの前に巨大きょだいな防御壁を展開てんかいした。ドオォォン! と凄まじい音を立てて、巨大きょだいな尻尾が防御壁に激突し、その動きを止める。
「さすがリーダー!」
「感心してる場合か! 危なかったぞ!」

その間にも、リンダは竜むくろの正面で攻撃こうげきを避け続けていた。
「なるほどな。生きていた頃の癖は、骨になっても抜けねえらしい。お前が次にどこを狙うか、アタシにはお見通しだよ!」

「ブレス、来るぞ!」
バロンが叫ぶ。竜むくろはついに、溜め込んだ圧倒的あっとうてきな熱量を喉から放つべく、大きく口を開けた。
バロンは氷の矢を番え、骨と骨のわずかな隙間、その奥で燃える炎をにらむ。
(――外すわけには、いかねえっ!)
ゴーグルの下で鋭く研ぎ澄まされた瞳が、ターゲットを的確てきかくに捉える。放たれた矢は一直線いっちょくせんに飛翔し、炎と氷が激突。パァン! と甲高い音を立てて、竜むくろの体内で小規模な爆発が起こった。たまらず竜むくろが怯み、大きく体勢を崩す。

その一瞬いっしゅんの好機を、リンダが見逃すはずがなかった。

「――最高のパスだ、ガキどもッ!!」

回避によって極限まで高められた力が、大剣に収束する。矢のように飛び出したリンダは、がら空きになった竜むくろの胸元に、渾身こんしん一撃いちげきを叩き込んだ。
黒曜石こくようせきの如き骨がくだけ、刃は体内の灼熱の炎を貫く。

ドン、と。遠く離れた街からでもはっきりと分かるほど、巨大きょだいな縦一筋の炎の光が、天高く昇った。

声もなく崩れ落ちる灰燼の竜むくろ。舞い上がる砂煙の中から、海王丸かいおうまるが主を乗せて悠々と戻ってくる。リンダは大剣を背負い直し、ザハラの街の方を見つめた。

「さて、と。こっちのデカいヤマは片付いたが……あっちは、上手くやってるかね」


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